研究
不飽和脂肪酸は容易に酸化されます。そのため酸化脂質は、単なる酸化障害の結果生じた副生成物であるとも考えられてきました。しかし最近、これら酸化脂質や、その代謝産物が様々な疾患や炎症の原因分子として作用することが報告されはじめています。しかしながら、これら酸化脂質を特異的にかつ高感度に測定する技術は限られていました。
脂質は酸化されると、脂質ラジカル、過酸化物、そしてアルデヒドなどが生成します。そこで我々は、まず脂質ラジカルの検出プローブを開発しました(Nat Chem Biol, 2016)。これは、脂質ラジカルを捕らえることにより、蛍光発光するように設計しています。実際に、化学発癌、光誘発網膜障害モデル(Chem Commun, 2017)で、症状に応じて脂質ラジカルが生成していることを報告しました。そして最近では、これら脂質ラジカルの構造解析技術、またアルデヒド体の検出および構造解析技術開発へと展開しています。これら開発した技術は、患者サンプルを用いたバイオマーカー探索へと発展させる予定です。
酸化脂質やその代謝産物は、炎症反応や細胞死などを誘発することが報告されています。この酸化脂質の生成起点である脂質ラジカルを消去すると、例えば化学発癌(Nat Chem Biol, 2016)や光誘発網膜障害(Chem Commun, 2017)などの発症・進展を軽減しました。これは、酸化脂質およびその代謝産物などが創薬ターゲットになりうることを示しています。そこで我々の研究室では、これらターゲットに対する阻害剤スクリーニング系を新たに構築しました。そして、いくつかの疾患で、シーズ候補化合物を見出しております。さらに、これら候補化合物を用いて、疾患のメカニズム解明を進めています。
我々は、これらの研究を通し、アンメットメディカルニーズに対して、「酸化脂質」という新たな観点から創薬研究を推進し、人々の健康維持に貢献することを目指しています。
我々が開発した技術は、脂質ラジカルのみでなく、蛋白質ラジカル、DNAラジカルなどにも応用可能です。我々は、生体機能性分子が酸化されるとまず生成する「ラジカル」を網羅的に検出するプローブを開発し、「ラジカロミクス研究」へと発展させています。
分子イメージング技術は、生体や細胞での機能の可視化実現に大きく貢献し、今後も研究が加速する分野です。最近では、それぞれのモダリティーの技術課題を克服するべく、複数の装置を組み合わせたマルチモダリティー研究と共に、そのプローブ開発が精力的に進められています。そこで当研究室では、「磁気共鳴装置、蛍光、質量分析装置に対するマルチモダールイメージングを可能とする低分子化合物を開発し、生体から分子までの異なる階層間での情報統合と疾患モデルへの適用」を行うことを目指しています。さらに本手法を、Theranostics(Therapuetics(治療法)とDiagnostics(診断法)をあわせた概念)へと展開していきます。