大阪大学 大学院基礎工学研究科 電子光科学領域 向山研究室

研究内容紹介

私たちの研究室ではレーザー光や電場の力によって原子やイオンを真空中に捕獲し,さらにレーザーの性質をうまく利用することでほぼ絶対零度と言えるほどの極低温状態を実現しています。極低温の状態というのは極めて非日常の状態のように感じるかもしれませんが,実は極低温の原子は自然界に広くみられる様々な系と似た性質を示すことが知られています。また,極低温のイオンは取りうる状態が極めて少なくなり量子状態の精密な制御を可能なことから量子情報処理への応用が期待される系です。我々はレーザー技術に加えて真空や電子回路,プログラミングなど様々な技術を駆使して

  • 極低温原子気体を用いた高温超伝導メカニズムの解明
  • 宇宙空間など低温環境における化学反応の解明
  • 結合共振器モデルの量子シミュレーション
  • プレーナー型イオントラップの開発

といった研究テーマに取り組んでいます。

各研究テーマについてより詳細を説明します。

極低温原子気体を用いた高温超伝導メカニズムの解明

超伝導とは低温において金属の電気抵抗がゼロになる有名な現象です。超伝導現象が発現するには2つの電子が対を形成することが必要となりますが,この対の作り方の対称性によってさまざまな超伝導状態が存在してます。私たちは超伝導現象の中でもp波という特殊な対称性を持った超伝導状態を,レーザー光によって極低温にまで冷却された原子気体を用いて研究し,その超伝導現象のミクロな発現メカニズムを解明しようとしています。冷却原子気体のように何にも覆い隠されずにその挙動が直に目で見ることができる系では,超伝導物質を用いた研究では得にくい相補的な情報が引き出せるのではないかと期待して研究を行っています。

宇宙空間など低温環境における化学反応の解明

レーザー冷却という技術は中性原子だけでなく,電荷を持ったイオンも冷却することができます。一方,電荷を持った原資と中性原子は化学反応性が高く,それらを極低温の環境下で混合することで,低温環境における化学反応の性質を詳細に調べることができるようになります。これは宇宙空間など低温の世界に存在する分子の起源を知ることにつながると考えられます。私たちはレーザーの技術を巧みに利用することで極低温の原子とイオンを生成し,それらの引き起こす化学反応を研究しています。低温の環境における化学反応は星間分子の生成メカニズムなどとも関連しており,物理,化学の両方の視点から見て重要な研究テーマです。

結合共振器モデルの量子シミュレーションの実現

原子を含む光共振器(CQED)が結合し、配列したモデルは、固体の強相関系をシミュレートする新しいモデルとして理論的に提案され解析がなされてきました。我々は、冷却イオンを用いて初めてこのモデルを実験的に実証することに成功し、注目を集めています。

(左図)結合共振器モデル。灰色の部分およびそれにはさまれた領域が光共振器を表し、赤色の丸が光共振器中の原子を表す。黄色の線は光共振器中に閉じ込められている光子を表す。光子が原子と結合することにより、複数の光子間に反発相互作用が生じる。これにより、光子を用いて固体中の相互作用する電子をシミュレートすることが可能となる。

(右図)冷却イオンを用いて結合共振器モデルを実現している様子を表す図。イオン(緑色の球)が一つの光共振器に対応し、イオンの内部状態(緑色の矢印)が光共振器内の原子に対応する。また、イオンの振動の量子(青色の矢印)が光子に対応する。赤色の矢印で表される光がイオンの内部状態と振動の量子の間の結合を引き起こす。結局左図の結合共振器系と等価となり、同様に固体中の相互作用する電子のシミュレーションを行うことが可能となる。

プレーナー型イオントラップの開発

イオンを用いた量子情報処理を大規模化していくためには、イオントラップを集積化していくことが必要です。このために、平面基板上に電極を集積化できるプレーナー型イオントラップを開発しています。現在、このトラップ中のイオンのレーザー冷却やイオンの電極間の移動、および二次元配列型や磁場勾配を持つトラップ等の新しい機能のトラップの開発を進めています。

最近の研究活動